歯ブラシを持って、毎晩がんばっている。それなのに、愛犬の歯がだんだん茶色くなってくる。
あるいは――ふと口の中をのぞいたら、奥歯に茶色いかたまりがついていた。「え、いつのまに」と思って、あわててこの記事にたどり着いた方もいるかもしれません。
わが家のシェルティー・はるは、毎日歯みがきをしてきた犬です。それでも歯石はつきました。
この記事は、歯石の取り方をお伝えする記事ではありません。歯石ができてしまったあと、何が選べて、それをどう決めればいいのか。わが家が実際に迷って決めたことを、動物看護師の妻に確認しながらまとめました。
この記事を読むとわかること
- 歯垢と歯石は何が違うのか(そして、なぜ歯ブラシで取れなくなるのか)
- 歯石ができたあとに選べる道は2つあること
- 「麻酔なしで取れますよ」と言われたときに、どう考えればいいか
- 「うちの子は暴れないから大丈夫」が、いちばん危ない理由
- わが家が全身麻酔を選んだ日の、迷いと費用のこと

毎日磨いていたのに、はるの歯は茶色くなりました
先に、いちばん言いたいことを書きます。
はるは、子犬のころから毎日歯みがきをしてきた犬でした。磨いていたのは妻です。動物看護師で、トリマーで、仕事で毎日たくさんの犬の口を見ている人が、自分の犬の歯を毎晩磨いていました。
それでも、妻はこう言います。
「はるはずっと歯磨きもしてきたんだけど、どうしても歯石が溜まって歯が茶色くなりがちだった」
毎日磨いていても、歯石はつきました。つきやすい子は、つきやすい。
だからこの記事は、「歯みがきをサボったから歯石ができたんですよ」という記事ではありません。歯みがきができていない方も、途中でやめてしまった方も、責めるつもりはまったくないです。わが家は毎日やっていて、それでこの状態でしたから。
歯石ができてしまった。そこからどうするか。その話をします。
歯石って、歯垢と何が違うの?
まず、ここだけ押さえておくと、あとの話がぜんぶわかります。
歯垢(しこう)は、食べかすと細菌が混ざったやわらかい汚れです。白っぽくて、ネバネバしています。これは歯ブラシで取れます。
歯石(しせき)は、その歯垢が固まって、石のようになったものです。茶色っぽかったり、白っぽかったり。こうなると、もう歯ブラシでは取れません。
そして大事なのが、そのスピードです。犬の場合、歯垢が歯石に変わるまでおよそ3日と言われています(人間は20日前後と言われているので、かなり早いです)。
つまり、こういうことになります。
毎日の歯みがきが効くのは、歯石になる前の3日間だけ。 そこを過ぎてしまったものは、どれだけ丁寧に磨いても、もう落ちません。
ここが、この記事の分かれ道です。予防の話と、できてしまったあとの話は、別なんです。

ぼくの歯、茶色くなりやすかったんだわん。ママが毎日みがいてくれてたんだけどね。
歯石を放っておくと、どうなるの?
歯石そのものが痛いわけではありません。でも、歯石の表面はざらざらしているので、そこにまた歯垢がつきます。つくとまた固まる。そうして少しずつ増えていきます。
そして歯ぐきが炎症を起こすと、歯周病につながっていきます。
わが家が「取る」という決断をした理由について、妻はこう言っていました。
「歯石が溜まると、そこから毒素が溜まって身体に入っていくのが嫌だった」
このあたりのしくみは、私のような素人が解説すべきことではないと思うので、妻の言葉のまま置いておきます。ただ、口の中だけの問題として考えていなかった、ということは伝わるかと思います。
そして、次のようなサインが出てきたら、様子を見るより先に、かかりつけの先生に見てもらってください。
- 口のにおいが強くなってきた
- 歯ぐきが赤い、腫れている
- よだれが増えた
- 口から出血している
- 食べたそうにしているのに、うまく食べられない
- ドライフードを嫌がるようになった、口から出す
- 口のあたりをやたらと気にする
- 体重が減ってきた
歯石ができたあと、選べる道は2つです
わが家では、こう考えています。
①動物病院で、全身麻酔をかけて取ってもらう
②取らずに、これ以上増やさないようにしていく
この2つです。どちらが正解というものではありません。その子の年齢、体の状態、歯石の程度、そして飼い主さんの考え方で変わります。
では、②を選んだ場合、飼い主は何をすればいいのか。この記事を書くにあたって、私なりの答えを妻にぶつけてみたのですが、返ってきたのは同じ答えでした。
やることは、いつもと同じです。 毎日よく見る。歯石がひどくなっていないか。そして、ひとつ前の章で挙げたサイン――口のにおい、歯ぐきの色、よだれ、食べ方、体重――を見ていく。
見るところは、①を選んだ場合とまったく同じ。ただ、②を選んだのなら、より注意深く見てあげてください。 新しく何かを始める必要はありません。いつもの「見る」を、少しだけ長くする。それだけです。
そのうえで、気になることがあれば、かかりつけの先生に相談してみてください。
「麻酔なしで取れますよ」と言われたら
さて、ここからが本題です。
調べていると、3つ目の道が出てきます。麻酔をかけずに歯石を取る、というものです。
麻酔と聞くと、こわいですよね。「麻酔なしで取れるなら、そのほうがいいのでは」と思う気持ちは、とてもよくわかります。私も最初はそう思いました。

ねむらないで取れるなら、そのほうがよくないの~?
でも、妻はこれについてだけは、いつになくはっきりしていました。
「あり得ない、危険。まともな先生なら麻酔なしで歯石を取ろうなんてしない。しかも先生以外がやる場合なんてもってのほか」
歯石は、目に見えている部分だけではありません。歯ぐきの中に入り込んでいる部分がある。そこまでちゃんと処置するには、動かない状態が必要になります。動いている口の中で、先のとがった器具を使う。それがどういうことかは、想像がつくかと思います。
また、獣医師以外の方がこうした処置を行うことについては、以前から問題が指摘されています。ここでは特定のお店やサービスの名前は挙げませんし、「違法です」と言い切ることもしません。ただ、気になるサービスを見つけたときは、申し込む前に一度、かかりつけの先生に相談してみてください。
だからこの記事では、これを「選べる道」には入れていません。
猫の場合も同じです。こちらの記事でも触れています。

「うちの子は暴れないから大丈夫」が、いちばん危ない
ここで、正直に書かなければならないことがあります。
「あり得ない、危険」と言った妻は、はるとく~の歯石を、自分でハンドスケーラーを使って取っています。
矛盾していますよね。私も思いました。そして、それを指摘する前に、妻のほうから言いました。
「さっきあり得ないって言ったのとは矛盾するけど、はる太とく~太なら暴れたり動いたりしないから安全にできるからやってるだけで、他の子にはしないし、できない」
なぜ他の子にはやらないのか。もう少し聞いてみると、こう返ってきました。
「危ないから。自分の子のことはよくわかってる。保定の強さ、どれだけ待っていられるか、など。対して他の子のことは、そこまで安全を確信するほどにはわからない」
つまり、断る理由は「自分の腕が足りないから」ではなく、「その子のことを知らないから」でした。
……ここまで読んで、こう思った方がいるかもしれません。
「じゃあ、うちの子のことは私がいちばん知ってる。私にもできるのでは?」
ここだけは、はっきり書かせてください。それは、できません。
妻が持っているものは、3つあります。
①動物看護師としての知識
②毎日の仕事で使っている技術
③その子のことを、よく知っていること
そして飼い主さんが持っているのは、③だけです。
③はいちばん尊いものだし、誰にも代われないものです。でも、③だけでは器具を持ってはいけないんです。歯石を取る器具は先がとがっています。歯ぐきを傷つければ出血しますし、痛い思いをした子が、そのあと口を触らせてくれなくなることがあります。
歯石を取ろうとして、毎日の歯みがきごと失う。 これがいちばん避けたい結末です。

ママは、ぼくのことをよーく知ってるからね。あと、日頃から仕事での経験もあるんだわん。
わが家が、はるに全身麻酔を選んだ日
はるが8歳くらいのとき、一度だけ、全身麻酔で歯石を取ってもらいました。
決めたのは妻です。獣医療の現場にいる人間だから、すんなり決めたのだろうと私は思っていました。でも、まったくそんなことはありませんでした。
麻酔のリスクは、こわかったそうです。年齢も考えて、「中間地点で一回だけ」と決めました。若いうちでも、シニアになってからでもなく、その真ん中で、一度だけ。
そして妻は、こう言いました。
「死んじゃったらいやだって思った。絶対安全ってことはないからね」
妻は、よくこう言います。「絶対ってことはないのよ」。
プロだから安心できる、ではないんです。プロだから、絶対がないことを知っている。
だから妻は、こうも言っています。
「本当にちょっとのリスクも負いたくない人は、やるべきではない」
これは大事なところだと思っています。「歯石は取るべきです」で終わる話ではありません。取らない、という選択もちゃんとある。 そして取らないと決めたなら、前に書いたとおり、いつもより注意深く見ていく。
わが家は取ることを選びました。それでも、もし今後また歯石が溜まって歯がだめになってしまったら、そのときは抜歯でもいい――そこまで話しています。
……そして、はるは元気に帰ってきました。
お金では迷いませんでした
このとき、はるの歯にかかった費用は5万円ほどでした。
正直に書きますが、この金額で私たちは迷いませんでした。今まで貯めてきたからです。
わが家には「わんにゃん貯金」があります。月に1万円ずつ。はるの歯のときには、80万円ほど貯まっていました。
多いと思われるかもしれません。でも、別の記事にも書いたとおり、はるはがんの治療で40万円かかったことがあります。1回の病気で、それくらいかかることが実際にあるんです。
だからわが家にとっては、月1万円の貯金。これくらいが、いざというときに困らないための線でした。
そして、やってみて初めてわかったことがあります。備えがあると、迷いの中身が変わります。
「この子の体にとって、どうするのがいいか」だけを考えられる。「今月は厳しいから来月にしようか」を、考えなくていい。同じ悩むにしても、悩む中身がぜんぜん違うんです。
ペット保険にするか、自分で積み立てるか。わが家の考え方は、こちらの記事にまとめています。

いちばんきれいな状態が、もう一回来た
麻酔で歯石を取ってもらうと、歯はきれいになります。
でも、思い出してください。歯垢は3日で歯石になります。 何もしなければ、また同じところに、同じように溜まっていきます。そしてまた、麻酔をかけることになる。
……ただ、裏を返すと、こういうことでもあるんです。
いま、その子の口の中には、歯垢も歯石もありません。
子犬のころの歯が、もう一度戻ってきた。
そして――一度目と、いまでは、決定的に違うことがあります。
一度目は、歯みがきのことなんて何も知らないうちに過ぎていきました。 でも今度は、知っている状態で始められます。歯垢が3日で固まることも、どこに歯石がつきやすいかも、もう知っている。
そして、変わったのは知識だけではありません。
あなたの歯磨きも、あのころよりうまくなっています。
口のどこから触ればいいか。どれくらいの力で押さえればいいか。嫌がる前にやめるタイミング。ずっとやってきた人は、自分では気づかないうちに、確実にうまくなっています。子犬のころ、はじめて口に触れた日とは、もう別人の手です。
犬は、続けていれば慣れていきます。そして同時に、飼い主さんの腕も上がっている。 一度目のスタートとは、条件がまるで違うんです。
だから、麻酔で買ったのは、きれいな歯だけではないと思っています。知ったうえでのスタートを、もう一度もらったんです。
……とはいえ、毎日きっちり続けるのが大変なことも、わかっています。
わが家は、はるとく~には毎日やっていました。それでも歯石はつきました。 つまり、毎日できたかどうかだけで決まるわけでもないんです。だから、磨けない日があった方も、そこだけを責めなくて大丈夫です。
では、どうやって続けていくか。わが家のやり方は、こちらにまとめています。
(記事末尾のリンクへ)
(ちなみに、猫のにゃん太には毎日できていません。猫は、犬とはまったく話が違いました)
それでも、歯石がついてしまう子はいます
最後に、もう一度だけ。
はる太は、毎日歯みがきをしてもらっていた犬でした。それでも歯は茶色くなりました。歯石はつきました。
だから、もしあなたが今「ちゃんと磨いてあげられなかった」と思っているなら、その気持ちは少しだけ手放してほしいです。ちゃんと磨いていても、つく子はつくんです。
そして、歯石ができてしまったからといって、すべてが手遅れになるわけでもありません。取るという道もあるし、取らずに見ていくという道もある。どちらを選んでも、毎日その子の口をのぞいて、変わりがないか見てあげることは、今日からできます。
ゼロか100かではありません。できることを、できるぶんだけ。あとは、その子をよく知っている先生と一緒に決めていけば大丈夫です。

ぼくはね、がんばって寝てただけだわん。起きたら歯がツルツルだったわん。




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