愛犬の体をなでていて、指が止まる。
固い。毛が、かたまりになっている。
あわててネットで調べたら「バリカンで刈るしかない」と出てきて、写真を見て、思わず手が止まった——毛がなくなった姿。それはちょっと、かわいそうなんじゃないか。
この記事は、そういうときに読んでもらえたらと思って書いています。
わが家には動物看護師でトリマーの妻がいます。この記事の内容は、ぜんぶ妻に聞いた話です。そして妻の答えは、私が思っていたのとは、かなり違いました。
この記事を読むとわかること
- 毛玉を切るのは、本当に「かわいそう」なのか
- 「もつれ」と「毛玉」は、じつは別のものだということ
- 毛玉ができやすい場所と、その理由
- 家でできること・やらないほうがいいこと
- 次から毛玉をつくらないための、2つの方法

毛玉を見つけてしまった人へ、まず伝えたいこと
先に、いちばん大事なことを書きます。
妻に「毛玉ができている子が来たらどうするの?」と聞いたとき、答えは一秒もためらいがありませんでした。
「毛玉ができていたら、私は切る。犬がかわいそうだから」
大きい毛玉はほぐすのが大変で、そのあいだずっと犬が痛い思いをする。だから切る。小さい毛玉は、切っても目立たない。だから切る。
「結局はどの道、切る(笑)」
そして、これも言っていました。だいたいの場合、毛はまた生えてきます。あまり生えてこなかったとしても、毛玉をそのままにしておくほうが問題がある。このことは、後ほど詳しく書きます。
いま毛玉を見つけて、焦っている方。「気づかなかった自分が悪いんじゃないか」と思っている方。まず、大丈夫です。ここから何をすればいいかを、順番に書いていきます。
その「かわいそう」は、どっちの意味だろう
正直に書きます。私はもともと、毛玉だらけの子の写真を見て、単純に「かわいそう」と思っていました。
ただ、だんだんとその「かわいそう」は、「こんな状態にされて、かわいそう」という飼い主さんへの不満に変わっていきました。
でも、さらに気づいたことがあります。私に、そんなことを思う資格はありません。というのも、わが家の犬たちの手入れは、妻がぜんぶやってくれているからです。毛の手入れに関して、私は何ひとつやっていません。 何もしていない人間が、誰かを責められるはずがないんです。
そして、妻に「毛玉を切るのはかわいそうって思う人もいると思うんだけど」と聞いたとき、返ってきたのは、私が考えていたのとまったく別のことでした。
「毛玉を切ることの何がかわいそうか、わからない。毛玉を切ることは痛くない。毛玉をほぐすとか、そのままにしておくほうが痛いよ。犬は自分の姿を気にしないんだから切った方がいい。気にするのは飼い主さんでしょ」
同じ「かわいそう」という言葉を使っているのに、測っているものが、みんな違っていたんです。
- 私が見ていたのは、誰のせいか
- 多くの飼い主さんが気にするのは、見た目。毛がなくなる、形が変わる
- 妻が見ているのは、ずっと痛いかどうか、それだけ
妻にとって、毛玉は「痛いもの」です。皮膚が引っぱられて痛い。ほぐそうとすれば、もっと痛い。しかもほぐす時間だけ、体を押さえられている時間も長くなります。
そう聞くと、切るという選択はまったく違って見えてきます。切るのは、いちばん痛くない方法だったんです。
ただ、妻の線引きは、私とは違うところにありました。
「毛玉を切りたくない、っていう飼い主さんには、なんて言うの?」と聞いてみました。
『でも痛いので、切りますね』
それだけ?と聞いたら、それだけでした。説得もしないし、議論もしない。理由をひとつだけ伝えて、切る。
毛玉ができること自体は、仕方がない。でも、「切らないでほしい」ということにだけは、妻は寄り添いません。
妻が見ているのは、やっぱり最後まで「犬が痛いかどうか」でした。
もしいま「かわいそう」で迷っているなら、一度だけ自分に聞いてみてください。その”かわいそう”は、どれのことですか。
「もつれ」と「毛玉」は、じつは別のもの
これも妻に言われて、はじめて意識しました。
「そもそも、毛玉ともつれは違うからね。もつれは、毛玉になる前にブラッシングをしっかりしてあげること」
私はずっと、ぜんぶまとめて「毛玉」と呼んでいました。でも実際には、段階があります。
- もつれ … 毛がからまりはじめた状態。ブラッシングでほどけます
- 毛玉 … からまった毛が固まってしまった状態。ほぐすと痛い
この線が引けると、自分の子の状態を自分で判断できるようになります。
毛をかき分けてみて、コームがすっと通るなら、まだ「もつれ」。ブラッシングの出番です。指でつまんでも動かない、コームがはじかれる——そうなっていたら、それは「毛玉」。ここから先は、判断が変わります。
ブラッシングそのもののやり方は別の記事にまとめてあるので、そちらもどうぞ。


ぼくはいつもままにさわってチェックしてもらっているから、毛玉については安心してるんだ〜。
毛玉ができるのは「動くところ」
「毛玉ができやすい場所ってどこ?」と聞いたときの答えが、すごくシンプルでした。
「脇、耳の後ろ、関節とかよく動くところ」
場所を暗記するより、理由のほうが役に立ちます。毛玉は、毛と毛がこすれ続けるところにできます。だから「動くところ」なんです。
意外だったのは、こちらでした。
「内股と首まわりは、あんまりできない」
以前は首まわりにもできると言われていましたが、それは首輪が理由でした。ハーネスを使う人が増えたことで、減っていったそうです。そして、そのハーネスの下は、思ったほどこすれないとのこと。
ネットでよく「定番」と書かれている場所が、現場ではそうでもない。むしろ変わっていくこともある、という話でした。
ただし服は別です。着せている時間が長いほど、こすれる時間も長くなります。
毛玉ができる条件をまとめると、こうなります。
こすれる(摩擦)・湿っている・抜け毛がたまる・汚れが残る・そして時間
とくに注意したいのが濡れたままです。シャンプーのあとの生乾き、雨で濡れたあと。水分が残ったまま乾いていくと、毛にクセがついて固まりやすくなります。


ぼくは毛が抜けるタイプなんだわん。抜けた毛をそのままにしておくと、それが毛玉のもとになっちゃうんだって言ってたわん。
「シニアは毛玉ができやすい」は、実は違いました
これは、またしても私が完全に思い込んでいた話です。
「年をとって寝ている時間が長い子は、体がこすれて毛玉ができやすいんじゃない?」と聞いてみました。そう書いてあるのを読んだことがあったので。
「そう言われていたりもするけど、シニアはそもそも毛が減ってくるから、そんなことはない。むしろできにくいよ」
「寝ていてこすれるなら、そこの毛は毛玉にならずに抜けちゃう。さらに床ずれになる」
なるほど、と思いました。寝てこすれ続ければ、毛玉ではなく抜け毛の心配になるんですね。
そしてシニアの子で本当に気をつけるのは、毛玉ではなく床ずれのほうでした。寝ている時間が長い子は、体の下になる側を見てあげてください。皮膚が赤くなっていたり、毛が薄くなっていたら、獣医さんに相談を。

年をとると毛が減ってくるから、毛玉はできにくくなるんだって。そのかわり、寝てる時間が長い子は、体の下を見てあげてほしいわん。
毛玉ができやすい子はいる?──毛質より大事なこと
犬種でいうと、プードルとビション・フリーゼ。わが家のく~も、まさにプードルです。
毛が多い子も、ブラシが根元まで届きにくいぶん、毛玉になりやすいそうです。
ただ、妻の答えの本体は、ここではありませんでした。
「毛質とか巻き毛とかよりも、飼い主さんが毛玉ができないようにする気があるかどうか(笑)」
正直、ちょっとどきっとする言葉です。でも、よく考えるとこれは希望のある話だと思いました。
毛質は変えられません。犬種も変えられません。でも、手のかけ方は変えられる。つまり、毛玉ができるかどうかは、変えられないもので決まっているわけじゃない、ということです。
ブラッシングとサロンの頻度で予防できる、とのことでした。
もうひとつ、妻が「これは大事」と強めに言ったのがごはんでした。
「食事は大事。被毛と皮膚への影響が大きいから。アレルギーが出ると、それが被毛にも影響して、毛玉もできやすくなる」
毛玉の話をしていたら、ごはんの話になる。体はぜんぶつながっているんだな、と思わされました。
「切ると生えてこなくなる」と聞いたけれど
じつは私、以前に書いた抜け毛の記事で、サマーカットの注意点にふれました。犬の毛は、短く刈ると生えにくくなることがある。とくにダブルコートの子は注意が必要だ、と。
だとすると、「毛玉だから切ります」と言われたとき、不安になる方もいると思います。私も同じことを思って、妻に聞いてみました。
「ダブルコートの子は生えなくなることもあるかもしれないけど、毛玉をそのままにしておくほうが皮膚炎になるし痛いから仕方がない。毛が生えてこないことより重大」
「あと、毛玉になりやすい場所である脇のあたりは、もし生えてこなくてもそんなに影響はないかな」
つまり、どちらのリスクも本当にある、ということでした。「切っても平気ですよ」ではなく、「生えにくくなるかもしれない。それでも、切ったほうがいい」。
比べているのは、やっぱりその子がいま痛いかどうかでした。毛玉を放っておけば、皮膚炎になることもある。痛みが続く。それは、毛の生え方の問題より重大だ、と。
そしてもうひとつ。毛玉ができやすいのは、脇や耳の後ろといった、もともとあまり目立たない場所です。だから、仮に生えにくくなったとしても、見た目に大きく響くことは少ないそうです。
なお、毛玉ができやすい犬種であるプードルやビション・フリーゼは、毛が伸び続けるタイプ。この子たちの毛は、切ってもまた伸びてきます。

家でほどいていい毛玉、ダメな毛玉
ここで、私が混乱した話をします。
妻がく~を見ながら「ん? 昨日ここになかった毛玉ができてるぞ、ちょっとほぐそう」と言ったんです。
私は思わず聞きました。「え、ほぐさないで切るって言ったじゃん」
「毎日さわって手入れしてて、昨日なかった小さい毛玉ができた。簡単に処理できるし痛くしないから、ほぐそう。どこにできそうか分かるから、チェックもできるの」
「普通の人の子で毛玉ができる場合、最初のうちはどこにできるのか分からないから、毛玉をうまく探せない、固まる、ほぐせない、になるんだよ」
つまり、ほぐすか切るかを分けているのは、毛玉の「固さ」でした。できたばかりの小さいものはほぐせる。固まってしまったものは、ほぐすと痛い。
そして、家でほぐせない理由は、手先の問題ではありませんでした。「慣れる前はどこにできるか知らないから、小さいうちに見つけられない」。気づいたときには、もう固まっている。それだけのことなんです。
だから、家でやらないほうがいいことを書いておきます。
- いきなり濡らさない(濡らすと毛玉は締まって、もっと固くなります)
- 乾いたまま強く引っぱらない
- 毛玉の上からゴシゴシとかさない
- 濡らしたまま放置しない(生乾きは、新しい毛玉のもとです)
そして妻の結論は、ずっと変わりません。
「毛玉ができたらサロン。これ絶対」
⚠️ 毛玉の下の皮膚が赤い、傷がある、じくじくしている、さわると痛がる。このときは、サロンより先に動物病院へ。
それでも家でハサミを使うなら──コームを盾にする
「どうしても自分で何とかしたい」という方のために、妻が教えてくれた方法を書きます。ただ、先に危ないところを書かせてください。
毛玉は皮膚にぴったり張りついています。持ち上げると、皮膚も一緒に持ち上がります。 そこにハサミを入れたら、どうなるか。
妻に「家でハサミを使って皮膚を切っちゃった子、見たことある?」と聞いてみました。
「見たことはないけど、切る可能性はあるだろうね」
見ていないことを「事故が多いです」とは書けません。でも、起きてもおかしくない、とは言えると思います。
そのうえで、妻の方法です。
- コームを、毛玉の根元(皮膚側)に差し込む
- コームと毛玉のあいだに、ハサミを入れて切る
- コームと毛玉のあいだにハサミが入らないほど根元が詰まっているなら、コームを入れてから、毛玉を真っ二つに切るだけでもいい。それだけでも、ほぐしやすくなります
ポイントは、コームが皮膚とハサミのあいだの「盾」になることです。ハサミが皮膚に届かなくなります。
ちなみに妻のハサミを見せてもらったら、10本以上ぜんぶ、先が丸いものでした。「ハサミは挟んだときに切れるものだから、普通に使っていれば先が刺さってもそうそう切れないよ」とのこと。危ないのは刺さることではなく、皮膚ごと挟んで切ってしまうことなんですね。
そして妻は、こうも言っていました。暴れて危ない子には、ハサミを向けない。
そのうえで、最後にもう一度。
「でも、毛玉ができたらサロンに行って」
「毛玉ができる前に来て」──次からできにくくするために
毛玉を切ったあと、妻がお客さんに伝えるのは、いつも同じことだそうです。
「ブラッシングしてあげてください。それができないなら、トリミングに来る期間を短めにしてください」
私は、この二択がいいなと思いました。
「毎日ブラッシングしましょう」だけだと、できない人は行き止まりになってしまう。でも妻は「できないなら、来る回数を増やせばいい」と、もうひとつの道を出しています。
そのうえで、日々のポイントを3つだけ。
- シャンプーの前に、必ずブラッシング(換毛期だけでなく、いつもです。もつれたままシャンプーすると、そこが毛玉になります)
- 濡れたら、しっかり乾かす
- 毎日さわる。どこにできやすいかが分かってくると、小さいうちに見つけられるようになります
【実体験】わが家のく~は、週に1回シャンプーをして、そのあいだに1回は本格的なブラッシング。それ以外の日も、軽いブラッシングとチェックは毎日しています。そこまで頻繁にシャンプーができない場合でも、一般的なプードルなら、1〜2日に1回のブラッシング、月に1〜2回のシャンプー、月1回のトリミングが目安だそうです。
毛玉があると、妻は預かるときに「切りますね」と伝えます。トリミングを始めてから気づいたときは、電話をして伝えます。「切らないで」と言われることもあるそうです。それでも「でも痛いので切りますね」と言って、切る。(前述)
最後に、妻がぽつりと言ったことを書いておきます。
「毛玉を切ったからサロンに来なくなったお客さん、まったくいないとは言えないと思う。でもそれは考え方が違うから、来なくなっても仕方がない」
「自分で開業したから、それができるのかもね」
「だって、犬がかわいそうだもん」
病院やお店に勤めているトリマーさんには、毛玉を切りたくても切れない、断れない事情があることもある、とも言っていました。
毛玉を切るのは、あきらめではありません。いま痛い思いをしている子を、いちばん痛くない方法で楽にしてあげることです。
そして次からは、ブラッシングか、短いサイクルでのトリミングか。どちらを選んでも大丈夫です。ただ、どちらかは、してあげてほしいと思います。
妻の言葉を借りるなら、「毛玉ができないように、何かしらの努力をしてほしい」。
完璧でなくていい。でも、その子が痛くないほうへ。一歩でいいから進んで、選べたらいいなと思います。

ぼくの毛は、切ってもまた生えてくるよ〜。だから毛玉ができちゃっても、そんなに落ち込まないで〜。

でもね、毛玉ができると痛いんだわん。だから、できる前に気づいてもらえたら、それがいちばんうれしいんだわん。



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